Real intention -S-




暗がりのミッドガルに着いたのは、短針が二の前あたりを指している時刻だった。
疲労で硬くなりつつある肩を揉みながら、シスネは神羅ビルへと入る。
連日続いた任務も今日で終わりだ。徹夜続きで疲れ果てた体も、それを思えば、なんとか動かす事が出来た。
ロビーには、昼ほどの数ではないが、それなりに人影はある。知り合いがいれば軽く会釈しながらタークスオフィスへと向かった。
エレベーターに乗り込んでから、ほっと一息つく。
これからオフィスで報告書を書かなければならないが、今日ばかりは眠い。しかし今から家に戻る気力もないので、荷物だけ置いて仮眠室へ向かうつもりだった。
しばらくして、目的の階を知らせる音を耳に、シスネは重い足取りでエレベーターから降りる。誰か居るだろうか、そう思いつつ、そのままタークスオフィスへと向かった。

オフィスの明かりは、たったひとつだけ付いていた。
それ以外の明かりはどこも付いていない。他のタークス達は既に家へと戻ったか、任務中か。
とにかく、オフィスには一人しかいないようだった。挨拶でも一応しておこうと、その元へと向かう。
そして視界に飛び込む────赤。
机の上に散らばる資料と、書き途中の報告書。そしてその机に倒れこむ様に眠る──レノ。
恐らくシスネと同じような状況だろうという事が察せられる。だらしなく伸ばさせた手が握るペン。
シスネがどれだけ近づいても起きる気配は全くない。

「──レノ」

これでは風邪をひくだろうと思い、軽く肩をさすりながらシスネはレノの名前を呼んでやるが、レノは軽く身じろいだだけで起きない。
もう一度呼んでやるが、結果は同じだった。

「しょうがないわね……」

己の疲れも忘れ、シスネは溜息をつくと、自分の黒の上着を脱ぎそっとレノの肩にかけた。
シスネの体格上、レノの肩に足りてはいないが、冷え込む今、無いよりはマシだろう。
それでもなお、深い眠りについたままのレノの表情を見てシスネはくすりと微笑む。
あらゆる任務をこなすタークスである彼が、任務中には見せないであろう、この表情。
気持ち良さそうに眠る彼はどこか幼く見えて。
顔にかかった赤色の前髪をそっと、はらってやる。
それに気持ち良さそうに身じろぐ彼を見て、シスネは少し驚いた様な顔をしたが、どこか可笑しくて、笑みを深いものにした。

そういえば、彼の顔を見るのも確か二週間ぶりだったと思う。
シスネは二日や、三日といった任務が続いていたが、レノは長期遠征でミッドガルを出ており、なかなか会う事ができなくていた。
所々に見える、恐らくマテリアを使って治療したのであろうが、完治しなかったであろう浅い傷。
それが、その任務を語っているようにも思えた。

「……おかえりなさい」

シスネは優しくそう呟くと、仮眠室に向かうべく足を進めた。





仮眠室に横になってからどれ位の時間が経っただろうか。
扉を開く様な音に、シスネは目を覚ました。職業病なのだろうか。こいった些細な事でも、目が覚めてしまう。
足音に警戒さが無い事から、恐らく敵ではないということはわかるのだが、シスネはすっと耳を澄ました。
ためらう事なく近付いてくる足音と気配。その気配が、身に覚えのあるものになった時、シスネは体を起こした。

「レノ?」
「───あ?」

足音と気配の正体は、明らかに寝ぼけた目をした、レノであった。
それにシスネは安堵の息をもらすと、口を開く。

「起きたの? まったく。あんなところで寝てたら風邪───……」

をひく。そう言おうとしたのだが、それは彼によって遮られた。
あろうことか、そのままシスネが眠っていたベッドに倒れるようにダイブしたのだ。まるでシスネに覆いかぶさるように。

「ちょっと!? レ、──…」

名前を呼ぶ前に聞こえてきた寝息。
すぅすぅと気持ちよさそうに。そのままレノは眠ってしまっていた。シスネはそれに目を丸くすると、呆れたように息を吐く。

「ほんとに……」

子供なんだから。その言葉は彼に届く事なく消えていく。自分もとことんまで甘いとは思うが。決して、嫌とは思わないのだ。
────彼で、あるからこそ。
シスネはそのまま自分もベッドに寝そべると、目を閉じた。
起きた時、髪の色のように顔を真っ赤に染める彼を、思い描きながら。