時間枠はレノとザックスが仲良くなる前とか。ザックスの片想いとか。そんな感じ。




既に十一時を回った、深い夜。先ほど振っていた雨のせいで濡れた道を照らす街頭以外の光は見つからない。──それもそうだ。今自分が歩いている場所は路地裏で、しかもこの時間。
当然、人の姿など自分を除いて皆無だ。人がいないからと言って安全という訳でもないこの路地裏を歩くのは、神羅に属すソルジャー2nd、ザックス。
明日の朝飯を買いに行こうと家を出たのは、確か三十分位前。女性だったら外出は控えるであろう時間帯だが、ザックスがそれを気にする必要もなかった。
そして左手にある袋には、買う予定だった食料と、たまたま目に入り買った雑誌が一冊。勿論空いた時間に読むためのものだ。
徹夜続きだった任務を終えたばかりの今の体力では、帰ってから読む気力はない。家に着き次第眠るつもりだ。
今通っている道は、危険ではあるが近道だから、着くのは速い。あと五分程度で家だったのだろうか。
───ふと、気配を感じた。
常人では恐らく気付かなかったであろうが、ザックスはそれを察知し足を止めた。歩くと同時に揺れていた袋が止まった影響で、がさりと音をたてる。
敵、だろうか。ザックスを神羅の者だと知っている者の気配だとしたら、それもあり得る。今は愛用の剣は持っていなかった為、仕方なく護身用の短剣に手を伸ばした。
その場に静寂が戻った。気配が動く様子は感じられない。しかし、どこかに誰かが居るのは確かだ。ザックスは気を緩めず、かついつでも対応できる様周りを見回した。
見回し、ふと目に入ったのは、赤の……血の跡だった。転々と続いている。それに沿って視線をあげていけば、十メートルほど先の建物の隙間に続いていた。

(誰か、いるのか──?)

だとして、この血がその人物のものなら大怪我をしている事だろう。ただならぬ出血量。もしかしたら……死んでいるかもしれない。
このまま帰る、という選択肢もあったのだが、ザックスは何を思ったのか、その血の跡の先へと足を進めた。

暗闇。何も見えずいつ指されるかわからないこの危険な場所にも、ザックスは堂々と足を踏み入れる。
一歩、二歩と進めば、ずっと感じていた気配が、ぴたり。消えた。
恐らくザックスの気配を察知して、己の気配を殺したのだろう。ザックスを殺す為なのか、それとも自分の身を守るためなのか、わからないけど。
それだけで相手がただの凡人ではない、手慣れた戦う者だという事がわかった。ザックスはふっ、と微笑む。……何故笑ったのだろうか。
気配が消えたと同時に止めた足を、ザックスは再び進め始めた。何の迷いもなく、堂々と。

────ビシ。

空を切る感触と同時に、首元に感じた冷たい感触。自分の首に何かを突き付けられたのはわかった。
ザックスは臆することなく、その持ち主がいるであろう方向を振り返った。
最初は姿を確認する事ができなかったが、月の光が差し込むとともにその姿があらわになっていく。

「てめぇ、誰だ。……ここに何しに来やがった」

黒いスーツが闇のせいで更に黒く見える。目立つあの赤も、どす黒く感じた。

「それはこっちの台詞だっての。……つーか、お前大丈夫か?」

溜息混じりに言った台詞だが、本当は叫んで喜んでやりたいくらいだ。……こんなところで会えるなんて。

「……うるせぇ。失せろ」

赤毛の──ザックスが日頃から目で追っていた……レノがそう吐き捨てる。 そして突き上げているのが疲れたのか、ザックスの首元にあったロッドを下ろした。
荒い息を繰り返しながら、睨むようにザックスを見上げてくる。そのまま見下ろしてやれば、ロッドを持っていない方の腕は己の腹部を抑えていて、ザックスはそれに気付いた。
苦笑する様な笑みを浮かべると、ザックスはレノと目線を合わせるかのようにしゃがみこんだ。それでも尚、レノはザックスを睨みつける。

「そんなナリで言われても、説得力に欠けてんな。……腕どけろ」

そう言って偶然持ち合わせていた回復のマテリアを取り出した。レノはそれを見て舌打ちする。

「余計な事すんじゃねぇよ。消えろ」

こうして見るのは久しぶりだが、相変わらず口が減っていないらしい。ザックスはそれを無視してレノの腕を掴んだ。案の定、か。レノはそれに目を見開いて反抗的な言葉を発し、抵抗した。

「てめぇ……!」
「あー、うるせぇ。……何、死にたいのか?」

そう言ってザックスは脅迫するかの様に腹部の深い傷に手を当てた。それだけで激痛がレノの体を走る。
レノは表情をゆがめ、ザックスを睨むが、抵抗はすることをやめた。

「そ。それでいいんだよ」

まるで幼児に対するかのような態度にレノの眉間に更に皺が寄り、睨みつける目も鋭くなっていく。
そのわかりやすい表情にザックスは怖がるどころか、楽しそうに笑った。しかしこれ以上からかう訳にもいかず、マテリアに魔力を注ぐことに専念する。
すると、段々と、ゆっくり。確実にレノの腹部の傷が癒えていく。苦痛にも歪んでいたレノの表情が少しずつ和らいでいるのを見て、ザックスはレノに見えない様に笑んだ。

「よし、と……。ほら、立てるか?」

完全とまではいかないが、傷を癒しザックスは立ち上がると、レノに手を差し出した。レノはその手を、じぃっと見つめると、ずるずると、その手を借りる事なく立ち上がる。
どこまでも素直ではないその態度にザックスは苦笑した。その手をひっこめ、少しばかり自分より背の低いレノの顔を覗き込む。

「お前、タークスだろ? 俺さ、ソルジャーの……」

ザックス・フェア。そう言おうとしたのだが、ふらりと倒れたその体を支える事で遮られた。

「おい!? レノ! 大丈夫か?」

完全に気を失ったのだろう、その体からは返事が返ってこない。そして支えて気付いた。その体がひどく冷えている事に。
さきほど振っていた雨のせいなのだろうか。スーツも濡れていて、髪も水で湿っていた。
倒れたのも傷が癒えて疲れがでたのか、自分を信用して気を抜いたのか。できれば後者であってほしいものだが、この状況は非常に困る。

「どうすっかな……」

レノの額に手をあててみれば、体と違ってひどく熱い。完全に熱を出している。それから少し考えて。

ザックスはレノの体を抱き上げると、自らの家へ急ぐべく、走り出した。
その時は、徹夜続きの疲れも忘れて。


     ◆


ザックスが目を覚ましたのは、翌日の朝十時だった。普段なら完全に遅刻だが、今日は非番だったので焦る事なく起き上がる。
そして自分がベッドの上でない事に気付いた。椅子に座って、目の前のベッドに上半身だけ倒れこむように眠っていたようだ。

「っていうか……」

いない。昨日までいたはずのあの赤毛が。いつの間にいなくなったのだろう。ベッドのシーツが冷たくなっている事から、居なくなったのは随分前のようだ。
疲れのせいで爆睡していたザックスはその人物が居なくなったのに気付かなかったのだろう。片想い中の、レノが居なくなった事に。
昨日、倒れたレノを自分の家に連れて帰り、自分のベッドに横たえさせると、熱が下がるまでレノを看病した。
最後に時計を見たのは確か朝の四、五時だった気がする。レノの熱が下がったのを見て、安心して瞼が下がっていき、恐らくそれで寝たのだろう。
彼は彼で、目が覚めて仕事にでも向かったのだろう。あんな傷を負っていたのだから、休めばいいのに。そう思ったがタークスである彼にそれを言う事はできない。
どちらにせよ、言ったところで彼は聞かなかったであろうことが、容易に想像できた。

ザックスは、それだけ思い出すと寝ぐせのついた自分の髪をくしゃくしゃとやりながら立ち上がり、自分の部屋を見回す。
看病であっちやらこっちやらと動いたせいか、少しばかり散らかっている自分の部屋。
ふと、ベッドサイドに置かれた机の上に目がいった。昨日はなかったであろう白い紙を見つけたからだ。その紙の上にはそのまま置かれたペン。

「レノの……か?」

ザックスはベッドに乗り上げその紙を手にし、裏返した。
それを見て、ぷっ、と噴出した。その小さい紙きれには、まったく、彼らしいというか。そんな文字が雑に書き殴られていて。

────『借りは返す』。

礼を言いたいのか、皮肉なのか。はたまた、別の事なのか。今になっては、それを知ることはできないけど。
ザックスはもう一度その紙面上に視線を走らせる。そして苦笑するような、けれども嬉しそうな。そんな笑みを零した。















まったく……

素直じゃねぇな。




ま、そこがいいんだけど。












レノを看病するザッ君のシーンはカットしました。こちらのレノverも予定しております。まぁ、そっちで書こうかな、と。
あとこちらはザッ君とレノさんが仲ようなる前の話。レノさんはザッ君を全く意識してないし顔も名前も覚えてないけど、ザッ君はゾッコンです。
これを境に知り合いになっていたりして。