ザックスとレノは親友。ザク⇒エア。レノ⇒シス。



笑顔に捕らわれる。



街はいつもと違う輝きを放っている。いたる所に数ある、建物の内の明かりが漏れた光だけで、照らされているのではない。
それと同等──いや、それ以上に光を放つ、街を飾ったイルミネーション。
建物を光で飾るだけでなく、一定置きに立ち並ぶ、人為的に植えられた木々にも光の輝きが飾られている。
常日頃から派手な外装ではあるミッドガルだが、このシーズンは特にすごい。時に、今年は例年以上に装飾が期待されていた。

そして、その街を堂々と、見せつけるかの様に歩く若い男女の二人組。これをカップルとでもいうのだろう。
このシーズンを、クリスマス・シーズンという。この行事がある理由は若干理解できないが。
クリスマスの前夜、クリスマス・イヴニングとクリスマスの日は特に人通りが多い街だが、
それに関連しない、クリスマス五日前の現在でも、人通りは特に多かった。
勿論、これだけで終わりではない。クリスマス・シーズンはまだ始まったばかりだ。

人が騒いで、遊ぶ。そんなシーズンでも、神羅の活動が滞る事は決してない。
今現在も各地に一般兵にソルジャーやタークス、神羅に務める者が各地に派遣されている。
神羅に務めている者の中で、仕事の都合で何人が予定を潰された事だろうか。
時には友達、時には家族、時には恋人との約束も幾度となくこのシーズンは消されていた。

その中で、クリスマスに休暇を奇跡的にとれた二人は、食堂で遅い夕食を摂っていた。
食堂には二人以外にはちらほらと数人が席を埋めているだけで、空席の数のほうがはるかに勝っている。
ソルジャー、ザックスは夕食の少し冷めたスープをスプーンで掬い、口に運んだ。
それをズズ、と飲みこみ、口を開いた。

「れーの。そういえばさ、レノはクリスマスどうするんだ?」

ふとザックスが、向かい側に座るタークスのレノに話しかけた。レノは、仕事の疲れか、だるそうに顔をあげる。
そして顔をあげたかと思うと、あー……と意味深かつ不可解な声を漏らした。
そんな親友の態度にザックスは苦笑する。まぁ、もう見慣れた事なのだけれど。

「誘ったのか?」

傍から聞けば、「何を?」となるのだが、レノはその言葉の意味も、ザックスの心理もよく理解していた。
正直、あまり触れてほしくない内容だったのだが、ザックスはおかまいなしだ。
レノは答えに多少の戸惑いを覚える。
いっそ、嘘でもついてやろうかと思ったが、そういう事に関してはすぐに見破られるだろうとレノは内心溜息をつく。

「いや、まだだぞ、と」

そう言えば、すぐに向かい側から「えー」という批判的な声があがった。
言うと思った。それは言わない事にしておく。言えば、あとあと面倒な事になりかねないから。

「お前なぁ…! いいのか、それで。他のヤツに奪われないとも限らないんだぜ? なんせ……」

知ってる。そんな事くらい。自分が今最愛の人は少なからずモテるということを。
今まで告白される姿を幾度となく見てきた。その時は周りに人がいたからすべて断っていたけど、
誘われて、もし予定が空いていたら彼女も頷きかねない。だから、はやく言わないといけない。

────クリスマスに、シスネを誘う事を。

誘っちまえ、とザックスに言われたのはこの月の初めごろだっただろうか。
それからもう二十日程たっている訳だが、いままで一度もその類の話は彼女にしていない。

「ったく! 明日は絶対誘えよなー……」

ザックスに相手がいなかったら、お前はどうなんだとか言えるわけだが、ザックスはザックスで相手をもう誘ってあるらしく。
時間がねぇんだよ、などと言い訳しかできないのだ。それにザックスの相手は、受付嬢とか、街を歩いていてたまたま知り合った、とかそう言った類ではなく。
確か……。名前を何といっただろう。見たのは数回でそれほど会ったわけでもなく、覚えているわけでもない。

「お前は……花売りの……確か……」
「エ・ア・リ・ス! いい加減覚えろよな! …俺はもう約束してんだから、お前もはやくしろ!」

行儀悪くスプーンを向けてくるザックスに、何故覚えなくちゃいけなんだ、とか、何故誘う事が決定しているのだとか、言いたい事はあったけれど。

「はいはい。わかりましたよ、と」

仕方ない。花売りの名前も覚えて、そして彼女を誘おう。そう、諦めた様にレノは頷いた。


         ◆


遅い夕食を終え食堂を出た後、ザックスと別れたレノはタークスフロアに向かっていた。
今更家に帰っても、意味はなさそうだった為、今日は仮眠室に泊まることにしたのだ。
チン、と音が響く。エレベーターが目的の階に到着したようだ。レノはじきに開いたエレベーターから出る。
そのままタークスフロアへと足を運んだ。カツ、カツ、カツ。と、誰もいない廊下にも否応なく自分の靴の音が響いた。
曲がり角を曲がると、視界には案の定、タークスフロアの入口が入った。暗闇を予想していたが、明かりがついている。誰か居るのだろうか。
居るなら居るで特に問題はない。軽く挨拶でもしてさっさと仮眠室に行こう。夜もぶっ通しだった昨夜の任務のせいか、目を閉じればすぐに眠れそうだった。

「失礼しますよー、と」

誰に言ったわけでもないが、そう言いながらレノはタークスフロアに入る。
しかし、室内には誰もいない。ただ電気を付けっぱなしだっただけなのだろうか。
──カツ、カツ。
自分とは多少違う靴の音にレノは振り返った。
そこに居たのは、片手に今いれたのであろうコーヒーを持った、あの。

「シスネ?」
「…そうよ。まったく、あなたは顔を見てもわからないのかしらね?」

少し怒った様に言ったシスネだが、すぐにふふ、と微笑む。
疲れたような顔をしたレノの表情を見て、シスネもレノの用に気がついたからだろう。

「待って。コーヒー淹れるわね」
「え? あ、あぁ」



すぐにシスネは戻ってきた。さきほどはコーヒーを片手に持っていたが、今度は両手に、だ。
シスネはレノに歩み寄ると、片方を差し出す。ここで断るわけにもいかず、レノはそれを受け取った。

「……さんきゅ」
「いえ」

それを終えるとシスネは自分の席に戻り、座った。そして開きっぱなしだったパソコンのキーボードを打ち始める。

「仕事中ですか、と?」
「そうよ。でも、もうすぐ終わるわ」

パソコンのディスプレイから視線を外すことなくシスネは答えた。彼女の横顔を見て、少し疲れている感じがしたのは気のせいだろうか。
ふと腕時計を見れば、短針が三と四の間を示している。こんな時間までやっていたなんて、一体何時間シスネはここにいたのだろう。

レノはコーヒーを啜りながら壁によりかかった。そうすればふとさきほどの事が思い出される。
誘えと言われたのはさきほどの事だ。こうして普通に立っているのは、決して忘れたわけではない。

「……なぁ、シスネ」

いつまでもここに立っているわけにもいかず、口を開いた。勿論、次の言葉なんて考えていない。

「どうしたの?」

彼女の視線はディスプレイからはずれなかった。胸がちくり、としたのはきっと気のせい。

「二十五、あいてるか、と」

ぴたり。キーボードを打つ、カタカタという音が消えた。その時はシスネのほうを見ていなかったけど、彼女がこっちを向いたのはわかった。

「それって、お誘い? ……残念だけど、もう他の方から誘われてるの」

ここまであさっりと切り捨てられるとは。いっそ清々しいものだ。唐突すぎて残念がる事すら忘れる。
そうか。そう言ってタークスフロアを出ようとしたが、それは彼女の声によって遮られた。
遮られた、というか、その言葉に自らが足を止めただけだけれど。

「と、言ってもいいけど、レノとでもいいかもしれないわね」

驚愕した。レノは唖然としてシスネを見つめた。そんなレノを見てか、シスネが笑む。

「ふふ。それじゃ、二十五日にね」

ふわり、とシスネが微笑んだ。からかわれた、という実感はあったけど、その笑顔に魅了され怒る事が出来なかった。




         ◆




翌日、仮眠室から出たレノは、タークスフロアに行った後、ザックスに会いに行くつもりだ。無論、昨日の事を報告する為である。
昨日はあまり誘う事に執着していなかったけれど、誘いにOKをもらうだけでここまでテンションが変わるとは。
自分でも驚きである。それと同時に内心、楽しみにしている自分を笑いたい。
タークスフロアに、速足で入る。そのまま室内を確認せず、自分の少ない荷物持つ。スーツのポケットに入れるべきものをいれて。

「…レノ。挨拶もなく、上司を無視とは、随分偉くなったものだな」

その声にふと顔をあげる。そこにいたのは、今は代理主任のツォン。眉間に皺を寄せて腕を組んでいるところを見ると、少なからず機嫌は良くないらしい。

「あれー、ツォンさん。おはようございます、と。じゃ、そういう事で」

立ち去ろうと、すぐに踵を返す。その行為が、ツォンの眉間の皺を強くした事など知らずに。

「待て」

がし、と肩を掴まれる。聞こえない様な微かな舌打ちをついレノはした。

「任務の知らせだ」
「は?」

渡された一枚の紙切れ。任務の説明である事はよくわかっている。しかし、今そんなものをもらうなんて。

「今は、休暇中のはずですが、と」

ザックスに会ったら帰るつもりだったのだ。突然そんな事を言われても困る。
そんなレノにもおかまいなしだ。さきほどの態度も影響しているだろうが、ツォンの表情が揺らぐことはない。

「急遽、変更、だ」

続けられる言葉に、眩暈すら覚えた。


         ◆


ザックスは、目の前で盛大にへこむレノを見て何事かと口角をひきつらせる。
昨日の様に、仕事で疲れた、わけではないようだ。だったら、他にどんな理由があったか。

「……レノ。ふられたか?」
「違うぞ、と! 断じて!」

そう思われるのは心外だったようだ。すぐにザックスはごめんごめん、と頭を下げる。

「で? 何があった?」
「…………二十五日に任務が入った」

それを聞いて理解したザックスは、あちゃー……と苦笑する。なるほど、それでか。

「誘いはしたのか?」
「……ああ」

こうなるともう、どうしようもない。誘いのOKをもらった嬉しさが大きい分、それを失う反動は大きい。誘う前ならまだ良かったのだが。

レノは常日頃の態度とは裏腹に、仕事に関しては割り切っている面がある。プライベートより仕事を優先したのだろう。
自分としては、親友がここまでへこんでいるところを見ると、なんとか助けてやりたいと思う。
ザックスはレノがだした任務の説明が記された一枚の紙切れを見た。ここまで少ない文という事は、よほど単純な任務だということか。
よほど重要で、レノを必要したものなら本人も頷けただろう。しかし、任務の内容は。

「モンスター駆除……」
「はぁ……」

一般兵でもできる様な事を、まさか予定を潰されてまでやらされる羽目になるとは。レノのショックはよほど大きいと見える。
また、レノが溜息をついた。それを見て、ザックスは仕方ない、とこちらもまた溜息をつく。

「ったく、しょうがないな…。……俺が変わってやるよ」

モンスター駆除なら変わってもいいはずだろ、と言って、にか、とザックスは笑む。

「え……ちょっと待て。お前、あの……そう、エアリスとかいう花売りと……」

忘れかけていた名前を脳内からひっぱりだし言うと、ザックスは首を横に振る。

「前日にするから。ま、ちょっと時間は減るけど、お前と違って俺はエアリスの所に通ってるからな」

だから、いいんだ。とザックスは言った。通う、という言葉に多少の不信感は感じたが、顔が緩むのを感じる。

「ま、予定あいたら俺に一日付き合う、っていう約束でな。頼むぜ」

また、ザックスは微笑んだ。レノも、素直に「ありがとう」と言う。ここまで素直に言ったのはいつの日ぶりだっただろう。そんな事を思いつつ。




         ◆




二十五日。今までも人通りは多かったが、夜にもかかわらず今日は更に多いように感じた。
街の中央の広場には様々な人が行きかう、光景。赤と白の服を着た人物も転々と立っている。

そんな光景を横目に、レノは一人歩いていた。ここに来よう、と言った公園へと行く為である。
ザックスが任務を変わってくれたおかげで、今日は来ることができた。その分は楽しもうと思ってはいる。
こんな事はもしかしたら初めてかもしれないし、どうなるかわかったのもではない。
多少の不安を胸中に、レノは公園へと着いた。
街中よりは人が少ないから、と公園にしたものの、案の定それなりには人はいる。
それで決して残念がったりはしない。レノは公園へと足を運び、シスネを探した。

────いない、か。

どうやらまだ来ていないと思い、レノは近くのベンチに座った。
する事もなく、ただぼんやりと空を眺める。雲ひとつない、真っ暗な空。至る所に光るあれは、きっと星だろう。
そして視界の左側にあるのが、月。
座っているのが、なんとなく嫌でふらりと立ち上がった。

「っ!?」

すると、それと同時にバサバサバサバサと羽ばたく音が背後から聞こえた。あまりの多さに腕で顔を隠す。
後ろを振り向けば、立ち並ぶ木々が目に入った。公園の木々にはイルミネーションは施されておらず、暗いままだ。
そこから次々に飛び立つ、恐らく、鳥。
何故今一斉に飛び立ったのかはわからない。けれど、まるで月に向かって飛び立つ鳥は神秘的で、美しい。
ふと、月を見るために上げていた顔をそのまま下げた。さきほどは見えなかったけど、見えた、あの人。

「……シスネ」

あちらも、レノに気付いた。そして、またふわりと、微笑む。
つられて自分の頬が緩む。微笑んだのだろうか、もしかしたら自分の笑みはぎこちなかったかもしれない。




笑顔に捕らわれる、


自分に気がついた。でも、それも悪くない。





*End*