やっちまった。
そう思った時にはもう遅い。
腹部から流れ出る赤く染まった液体。
止めようと腹部を手で押さえたが、もはや意味もなく、
手の間から更に流れ出る。
生温いその感触に「ああ。血だ」と、ようやく気がついた。

 

一枚上手の。

 


いつもの様に手渡された、任務の内容が書かれた資料。
手で持ってみたが、薄い。どうやらそれほど難しいものではないらしい。
案の定、めくってみれば敵の殲滅という任務内容。敵がなんであろうと、単純な任務のほうがわかりやすくて良い。

「任務はシスネとルードと向かえ。いいな」
「はいよ、っと」

ツォンの言葉に軽く頷き、特に同行者の名をだされても表情を変えない。
そのまま書類を手に、オフィスを出た。

そして、もうツォン達には見えないであろう場所で足を止める。
それはまた小さいガッツポーズをつき、頬を緩ませた。
同行者はシスネとルード。あの相棒はまぁ余計だが仕方ない。
名コンビなどとよくいわれる2人にとって同じ任務というのは致し方ない事だろう。
それよりも、だ。
ここ1か月、一度もシスネと任務を共にすることはなかった。
そればかりか何度も行き違い、まともに話すらしていない。
相手にその気があるのなら無理にでも会えたのだが、相手にその気はさらさらないらしく。

このチャンス逃してなるものかと心に決めたレノは、下からあがってきたエレベーターに乗った。

 


「…む」

ツォンらしからぬ短い、つぶやき。
その手には、さきほどレノに渡した書類と同じものが握られていた。
もう一度、読み直す。
さきほどレノには同行者がシスネとルードと言ったが…。

「シスネは別行動か」

ちらりとレノが出て行ったオフィスの入口を見たが、もういるはずもなく。

「まぁ、いいか」

結局そのままその書類は机の中にしまった。

 

 

エントランスに着いたが、そこにいたのは相棒のルードだけ。
相棒には目もくれず辺りを見回してみるが、そこにシスネの姿はなかった。

「レノ」

ルードに呼ばれた気がしたが、特に気にしない。

「シスネは」

自分を無視されて挙句別の人の名前を出されれば普通苛立つものだが、ルードが表情を変える事はなかった。
そのまま首を横に振る。

「いない」
「なんで」

短い言葉のやり取りだが、ルードは何も言わない。
そのまま言葉を続けた。

「聞いてないのか。別行動だ」
「はぁ!?」

エントランスにレノの怒鳴り声が一瞬響く。
反響する言葉が消える頃には、エントランスにいた一同の視線がこちらに注がれていた。
その視線にレノは声を潜める。すると、
何かの言い争いだろうと、その視線はすぐに消えた。

「聞いてないぞ、と」
「そうか。なら、今言った」
「はぁ〜…」

どうやら次会うのはまだ先になるらしい。

 


作戦開始5分前。
レノは日の当たらない所にある、物置きの影に身を潜めていた。
再度腕時計を確認する。
チ、チ、チ……少しずつ秒針が時が刻んでいっていた。
ふと、もう間もなくという時に、ジャケットのポケットに入っていた携帯がバイブする。
こんな時に。とレノは眉を潜めた。
まぁ、あと2分ある。
音がならない様に携帯を開き、通話ボタンを押した。

『…レノ?』

相手の声は思いがけない人物だった。

「シスネ!?」
『今は任務中よ。声の音量が大きいわ』
「あ、わ、悪ィ…、で、な、なんの用だよ、と」
『意味がないと掛けてはいけないのかしら』
「え? い、いや別に……」

久しぶりだからなのだろうか。声がどうしても強張る。
一番話したかった相手だというのに、気の利いた事が言えない。

『そうね。突然ごめんなさい。切るわ』
「え、ちょっ…!」

それはないだろう、と意味もなく携帯を握る力が強まる。
いつの間にか、身も乗り出していた。

『がんばってね、レノ。期待してるわよ』

愛しい、あの優しい声に、一瞬体を火照る様な感覚が走った。
自然と頬が緩む。

「任せろよ、と」
『ええ』

通話を終え携帯を閉じる。
激しく頬の緩んだその顔を再度引き締め、任務に取り掛かった。

 

 

任務完了。
のはず、だった。
最後の敵を不覚にも仕留め損ね、走り逃げる相手を追いかけた。
しかし待ち伏せしていた敵のナイフが自分の腹部を抉る。
なんとか腰に忍ばせていた銃で相手は仕留めたが、こちらも深手を負ってしまった。

「っ…ったく…何が任せろ、だ」

先ほどシスネに言った言葉が思い返される。
かっこ良く決めたかった事もあり言った言葉だが、これではまるで駄目ではないか。
残った魔力を限界まで使い、ケアルをかけなんとか出血は止める。
しかし魔法にも限界があるらしく、これ以上の治療は無理だろう。
任務は遂行した。あとはあの相棒がなんとかしてくれるはずだ。
ふらり、とレノは立ち上がると、重い足取りで神羅ビルへと足を向けた。

 


神羅ビル屋上。
普通の社員にとって休み時間でもないこの時間帯、屋上にはレノの姿以外誰も居なかった。

「ってぇ……」

小さい一回分の救急キットを使って、腹部と、その他少し深い傷に治療を施していく。
しかし、負傷していることもあるのか、うまくできない。
体を捻る度に痛みが体中を走った。

「はぁああ…」

まったく、今日は散々だ。
好きな女に無駄にかっこつけ、それを裏切るような失態。
挙句にはこうして一人で悲しく自分の治療。
そんな自分がひどく虚しく感じた。
シスネにこの失態がばれるのが嫌で登ってきた屋上も、閑散としていて、悲しい。

「なんで、こうなんのかなぁ、と」
「さぁ、なんのことかしら?」

まさか返事が返ってくるとは思っていなかったレノが、がば、と勢い良く後ろ向く。
そこには腕を組んでベンチに座っているレノを見下ろす、シスネ。

「なななななんでシスネ!?」
「任務を終えて、一息つく為に来た、といったら納得するのかしら?」
「え…あ、あぁ」

自分の為に来たのではなかったのか、と少し期待していた為にその言葉は胸に突き刺さる。
シスネはレノの隣に腰を下ろすと、レノの腹部あたりに視線を落とした。

「怪我、してるわね」
「別に深い傷じゃないぞ、と」

レノがふい、と顔を逸らしたのが気に入らなかったのか、シスネが眉をひそめ、
じり、とレノに近寄る。

「貸しなさい」
「は!?」

包帯を強引に奪い取り、レノの血で汚れたワイシャツをガッとあげる。

「ばっ! やめろよ、っと!」
「……さっきのは建前。報告書、おわってないのよ。私に押しつけるつもり?」
「……お前な…」

報告書と、俺。どっちが大事なんだと問いたい。
ただ本人に言えば『報告書』と言われかねないので、やめる。
レノはシスネの手を制止し、強引に立ち上がるとシスネに背を向けた。

「傷、治療してないわ」
「報告書、やりに行くぞ、と」

ズキズキと腹部が痛むが自分にもプライドがある。
これ以上、いくらシスネでも子供のような扱いはされたくない。
そんなレノを見てシスネは深く、深く溜息をついた。
シスネが背後からレノを無理やり引っ張ると、予想していなかった事とあってか、
簡単にレノがシスネに倒れこむ。
しかも。シスネの膝に、レノの頭が、だ。

「おい!シスネ!」
「いいから。少しは黙ったらどうなの?」

鋭い目つきでシスネに睨まれ、「う」とレノは唸ると抵抗をやめた。
こんな恥ずかしい場面をタークスの同僚やソルジャーにダチにも見られたら。
そう思うと、はやくこの状態から抜け出したいと思う。

治療していくシスネの顔をちらりと見ると、とても優しい顔つきで、
まさかタークスなどという仕事をしているとは到底思えない。
だからこそ、惹かれる。

「私の顔に何かついてる?」
「…報告書おわってないぞ、と」

答えになっていない答えを返す。
まだ引きずっているのか、そう思うと女々しいが今は仕方ない。
そう自分で納得した。

「そうね……」

シスネが少し思案したかの様な表情になると、
レノに視線を投げかけ、レノの耳元でささやく。


「レノのほうが大事よ」


どうやら、口にだしてしまっていたらしい。

 

 

 

 

 

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という事で初のパロでない普通のレノシス……。
無駄にレノさんが照れてます。照れまくってます。
ああ、こんなものでいいのかと載せるのが本当に憚られます。。。
リクエスト頂いてからものすごく日が経ってしまいました…。
挙句のこの文で、本当に申し訳ないです;
でもレノシスに対しての愛ならあります。そりゃぁ、もう。大好きですから。
それではラナ様、レノシスへの第一歩なリクエストありがとうございました^^(
この様な文になってしまいましたが、是非もらってやってくださいませ(><;)

2009/10/26