いつまでも、願う。
  
 自由を、願う。


レノとロッドは、崖の上から何十メートルもある倉庫を見下ろしていた。
傍から見ればそれは使われなくなった何の変哲もない倉庫である。
しかし、2人の目には、しっかりと、こそこそと倉庫へと入る人物が映っていた。

「確認したぞ、と。ポイントB。シスネ、どうだ?」

レノはそう無線に言うと、ジジジ…という機械音の後、聞きなれた声が聞こえる。

『えぇ、そうね……っ…こちらも確認したわ。敵はわかる範囲で30。相当の手練がいるわ』

潜めたような小さい声から、あちらの緊張感が窺えた。

『ザックス、カンセル。行けるか?』
『オッケー。こっちのほうがかなり数は多い。いつでも行ける』

ツォンの声の後、まだ現場にいないザックスの声がすぐさま返ってくる。

『いいか? 任務の最終確認をする。私語は慎め』

時は、昨日の夜に遡る。

 

 


「今回の本当の任務は、『未だ反抗はしていないが、いずれ神羅にとって脅威の敵となる恐れがある隊の殲滅』だ。
表向き、モンスターの討伐にしたのは、相手のバレない様するためだ。いいか、全滅を必要とされている。
いまから作戦を話す。明日決行だ」

ツォンの口から淡々と話された言葉はそれだった。

シスネがまず一人で現場に潜入し、敵の数を確認後、ばれない様奥へと進み資料を盗む。
シスネが潜入している事を気付かれぬよう正面から突入するのはザックスとカンセル。
そしてその混乱に応じてシスネが進むと同時、レノとロッドも潜入し、各場所に爆弾を設置する。
ソルジャーチームが敵を倒し、タークス男チームが爆弾で敵を全滅。
シスネが、相手の神羅の為になりそうな資料を奪う。
それが今回の任務の作戦内容であった。

「それから…全滅ができそうな場合は生け捕りもできれば欲しいという事だ。…いいな」
「──……了解」

いつもならすぐ返ってくる「了解」という返事も、今日は遅れていた。
殲滅だけなら、まだ良い。敵を倒すだけだから。
だけど『生け捕り』という言葉も意味も嫌いだった。
恐らく、生け捕りされた者は研究チームの材料にされる。
人の命を『実験体』、ものとしか扱わないあの宝条のいる研究チーム。
たとえ敵であっても、人である者をあそこへは送りたくなかった。

 

 


「いいな。任務開始は今から3分後。失敗は許されない。……健闘を祈る」

ツォンはぶちり、無線を切った。
彼らならやってくれる、そう信じている。
けど、昨日の夜のあの表情はひどく冷めていて、心苦しかった。

「……私情ははさむな、か」

ふぅ、と息を吐き薄く笑む。
ああ、こんな事をしていられないんだ。指揮官としての仕事があるのに。
ツォンは現場には行かない。こうして安全な所で命令を出している。

パソコンを開き、倉庫の地図を開いた。
ヴヴヴ……と、携帯がバイブ音を鳴らしはじめ、鳴らすたび携帯が揺れ動く。
決して口には出さないが、その携帯をとるのがめんどくさかった。
視線はパソコンのディスプレイの向けたまま、左手で携帯をとる。

「…はい。……わかりました。なるべく、生け捕りを、ですね」

電話の相手は神羅の偉い上官である。
しかし、ツォンは命令された内容を5人に言う事はなかった。

 

 

カチカチ、と音を鳴らし、時計の秒進は12を指した。
あと、1分。

「カンセル。俺達は暴れるだけだよな…?」
「ああ。いつもの事だろ」
「……そうだな」

2人に課せられた使命は、ひたすら暴れ敵の注意をひきつける事。
なんとも単純で、わかりやすい。

「ザックス」

浮かない表情をしていたザックスを見て、カンセルが視線は前に向けたまま言った。
──あと、15秒。

「迷うなよ」
「……ああ」

 

課せられた命令はひとつ。それをこなすまで、だ。

 

 

 

 

時間通りになると、遠くから聞こえた激しいぶつかりあう音。
しばらくして「侵入者が入口付近に現れた」という叫び声。
その声からは、まわりの混乱と焦りがうかがえた。
ザックスとカンセルが攻撃を開始したんだろう。

「さて、とロッド。行くぞ、と」
「ああ」

冷めた声でレノが言った。
爆弾を3つ、仕掛けなければならない。
レノは脳内で、前日にツォンに見せられた地図をを開く。
侵入する前に地図は完璧に覚えた。
レノは無造作に無線機をひっぱりだしツォンに繋ぐ。

「人の流れが悪い。爆弾は、B地点からでいいですか、と」
『わかった。B地点からAへは行かずCへ行け』
「りょうかい、と」

がしがし、と頭を掻いた。

「聞いてたか」
「おう」
「それじゃ、行くぞ、と」

銃の弾を確認する。よし、大丈夫だ。

「遅れるなよ!」
「わかってる!」

自慢のスピードをフルに使って走り始めた。

 

 

シスネの任務は非常に順調に進んでいる。
まだ一度も敵に見つかっていない。

相手の情報の中で、神羅の為になる情報を盗む。
パソコンをハッキングするためのソフトはちゃんとジャケットのポケットに入っている。
走りながらそれを確認した。


大分、走った。入り組んでいるこの倉庫の中は、地図を覚えていなかったから確実に迷ってしまう。
そういえば、この先は爆弾設置のA地点だったか。
2人は、いるだろうか……。

シスネは、曲がり角の影に身を潜め気配を完全に消す。
ちらり、と爆弾設置場所を見た。
レノとロッドがいる。ああ、あっちも順調のようだ。

──っ?

ざ、とシスネは姿を隠した。
今感じた気配は、あの2人のどっちかのものだろうか。
いや、まさかあの2人がそんな事をするはずがない。
もしかして、気付かれた──?
嫌な予想が頭をよぎった。

もう一度、2人がいた場所を見る。

「あっ!? レノ!」

隠れているのも忘れ、シスネは無我夢中で叫んだ。
爆弾を設置しているレノに向かって、走ってゆくのはかなり体つきの良い…恐らく、このチームの副リーダー。

 

 

────しくじった。
声と同時に避けたはいいが、剣が左腕を抉った。
敵の気配に気づけないなんて、自分の腕でも鈍ったのだろうか。
ズキズキと痛む左腕を右腕で抑える。
なんとかしないと。
そうは思うが体が動かない。

「レノ!?」

少し離れた場所にいたロッドがレノに駆け寄る。
今はシスネが敵と交戦中だ。
ち、とレノは舌打ちし、勢いよく立ちあがる。

「大丈夫かよ!?」

すかさずロッドがレノを支えた。

「黙ってろ。お前はA地点の予備場所D地点に爆弾を設置してこいよ、と」
「お前は!?」
「はやく!」

後輩をどなり、レノは電磁ロッドを強く握りしめる。

「わかった。すぐ戻る!」

ロッドは設置する事ができなかった爆弾を拾い、走って行った。
ロッドがいなかったら、自分はどうしていたんだと、こんな時にレノはそんな事を考えた。
これでは先輩としての面目丸つぶれである。
それよりも。

「シスネ、変われ! もう敵の資料はいい! 入口をつぶせ!」
「っ……わかったわ!」

シスネは戦いの手を止め身をひるがえし、そのまま走り去る。
敵はどうやら追わないらしい。そのままシスネの背を見送っていた。
その時、爆破音が耳に痛いほど響く。

───……一番最初に設置した爆弾が爆破したか。───

だとすればもう時間がない。はやく決めないと。

「次、俺の相手をするのは、兄ィちゃんかい?」
「けっ……そうだぞ、と!!」

不敵な笑みを浮かべた敵の瞳は、ひどく、暗い。

 

 

「カンセル、状況は!?」
──ザザッ
『やばいかもしれない! バレたせいで敵がレノ達のほうにまわった! どうする!?』

ツォンは拳を強く握りしめた。
あと、もう少しだったのに……ここまでか…?

「ロッド! 今爆破できる爆弾は!?」
『今すぐならC! 2分後ならDも!』
「わかった。いますぐCを爆破だ。敵の退路を断つ。Dはロッド、自分が安全地帯まで来たと思ったら爆破してくれ」
『待って! レノは!? 今敵の副と交戦中! 相当の手練よ』

すかさずシスネが無線に向かって叫んだ。
無線の先から瓦礫が崩れる音がそれぞれ響く。

「ザックス! 手練相手ならザックスが一番良い。レノのところへ行ってくれ。カンセル、一人でいけるか?」
『任せろ、と言いたいけど……10分なら…』
「ザックス、8分以内にレノと脱出…できるか?」
『ああ!』

 

ツォンは、ひととおりの指示を終え息をついた。
あとは、彼等に任せるしかない。
何もできない自分がとても、もどかしかった。

 

 


レノは、倒れた相手の腹にまたがり、銃口を敵の額に当てている。
引き金をひけば、この男は、死ぬ。
だが、無線で聞いていたのでは、ザックスが来るらしい。
だとすれば、生け捕りにする事が可能だった。

「お前に、選択肢をやるぞ、と」

跨るレノも、倒れた男も、血だらけで、吸い吐く息はとても荒々しい。
レノが銃を握る力を強めると、男はとじていた瞼をゆっくりと持ち上げた。

「どんな生き方であっても、生きたいか? 
それとも、───自由でいたいか?」

ふわりと、男が笑ったのをレノは感じた。
これはきっとこの男にとって愚問だったのかもしれない。
それは、戦ってわかっていた。
ゆらりと、男は左手をあげ弱々しくレノが握る銃を握る。

「自由で、いたい」

そう、か。
レノはためらいもなく、引き金を引く。
あたりに響いた銃声とともに、男は終わりを迎えた。

 

 

 

 

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うーん。微妙ですいませんでした。
なんか戦闘っぽい?指示とかあればっかりで…;;

最後はちょっぴりかっこイイレノさんと、己を貫く敵の男。
なんだか無駄に長くなってしまったわ。
倉庫は、CCFF7のバノーラ村でのアレをイメージ。

2009/09-10