昨日まで、遠征の任務があるとは聞いていた。
勿論、反神羅についても聞いていたが、自分には関係ない、と。
「ザックス。任務変更だ」
前もって伝えてほしい、とは思うところだが、任務の変更などはよくある事。
はいはい、と適当に頷きながら指定されたトレーニングルームへと足を運んだ。
「まだ、誰もいないな」
「だなぁ」
もう一人、同じ様に任務変更になったカンセルが隣にいた。
同じくカンセルのめんどくさそうな声に返答する。
扉を開き顔だけを室内に入れ、周りを見るが誰もいない。
「んだよ…。いないんだったらもうちょっと遅く来たのに」
「言っててもしょうがないだろ」
盛大な溜息とおもにザックスが言うと、カンセルはその声の主を横目に、室内へと入る。
閉めるぞ、とカンセルが声をかけるとザックスは犬の様に飛び入る。
その姿に苦笑しつつも、カンセルはザックスに言った。
「久々に手合わせでもしてみるか?」
まさか。カンセルがそんな事を言うとは思っていなかったのか、ザックスが目を丸くする。
そしてすぐ、にや、と笑むとザックスは口を開いた。
「いいぜ。ボッコボコにされても知らないからな」
「おー、怖い。ちょっとは手加減してくれよ、1stさん」
それから何分経ったか。つい久々の親友との手合わせに時を忘れかけていた。
カンセルは恐らく、というか本人の言うとおり、ザックスと違って戦略派だろう。
作戦を練り、現場にて指示をする。
ザックスにとっては頭の痛くなる話だが、カンセルにとっては得意の方法。
当の本人も、周りもカンセルはその『戦略知識』としての『戦力』だから、
ソルジャー2ndという位置にあるのだと思っている。
しかし実践という場合においてもカンセルは強い。
当然の事だが、ザックスとカンセルが本気でやりあったのなら、ザックスが勝つだろう。
しかし今の訓練という中、ザックスは気を少しでも抜けばやられそうな気がしていた。
ガチャリ……。若干遠慮するかの様なドアが開く音に、ちらりと考えていた思考を止め、ザックスは視線を向けた。
誰が来るかとは聞いていなかったから、誰なのか一応確認しておく為に。
「…あ」
一番最初に入ってきた赤髪の人物に、つい声を漏らした。
「よそ見なんてなめられたもんだな!」
「うぇ!?」
カンセルの蹴りが、見事に自らのみぞおちに入る。
ザックスは情けない声をもらしながら、壁に叩きつけられた。
「ってぇ…。いってぇな! それによそ見じゃない! ただ見とれただけだ!」
壁に叩きつけられた痛みをまるで表情に表わしもせずザックスが叫んだ。
カンセルは「何にだ…」と、額を抑える。
そして扉のほうから視線を感じ取り、こちらも視線を向けた。
さきほどは気付かなかったが、どうやら入室者がいたらしい。
そしてザックスの見とれた…は、よくわからないがよそ見には納得がいく。
「よっ」
3人目の入室者──ロッドが威勢良く手を挙げた。
「随分と手荒いのね」
さきほどのカンセルの蹴りの事を示したのであろう、シスネがくすくすと笑みをこぼしながら言った。
「犬の躾だろ、と。それはこれくらいがいいんだよ」
「そうかしら」
レノが苦笑交じりに言った言葉に、シスネも苦笑する。
そしてまるで聞いていなかったかのようにザックスが勢いよく立ちあがり、手を挙げた。
「レノ! シスネ! ロッド!」
名前を呼び、にっ、と笑む姿はとても微笑ましく。
仕方ないから手を挙げ返してやった。
ロッドは明らかなザックスの行動に眉を潜めた。
さきほどザックスとカンセルに会ってから、少し話したところで
任務内容である「訓練」を開始した。
ザックスがタークス3人相手に戦い、カンセルが4人の行動パターンを分析する。
自分達はいつも通り戦えばいい、わかりやすくて良かった。そこまでは。
ロッドは戦闘中、一度足を止めた。
つぅ、っと額から血が流れる。さきほどザックスの拳が掠った時に裂けた傷だ。
その血が地に落ちる前に右手で軽くぬぐいとる。
ふと視界の端でレノがザックスに蹴りを入れようと地を蹴った。
それもあっさりとかわされ、レノの仕打ちが聞こえる。
ザックスは避けただけで一切レノに手出しをしておらず、レノは未だ無傷。
次はシスネだ。
こちらもレノと同じように体を捻らせながら蹴りをくらわす。
体を捻った反動で、力が強まるがザックスはそれを避けず、腕一本で防いだ。
「それは反則だわ…」
諦めたかのような、苦笑がまじったシスネの声。
ザックスはシスネを受け身が取りやすいように投げ飛ばす。
彼女は軽く受け身をとり、体勢を整えた。
勿論、彼女にひとつも傷はない。
もう一度ロッドは自分を、見える範囲で見た。
血は止まっているが、ちらほらと見える傷跡。
内出血したのだろう、一部青黒く染まった自らの肌。
──何かがおかしい。
瞬間的にロッドはそれを感じ取ったが、首を横に振った。
─そんな事より、ザックスに一撃でもいいから食らわすぞ!
そう、意気込んだのだが。
渾身の一撃とばかりに力をいれた蹴りをあっさりとかわされた。
かと思えばザックスの拳が腹部へと素早く入る。
「っぐ…」
呻き声を漏らしながらあっさり吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
──ちょっと、待て。
「ザァアアックスゥウゥ!」
「おわ!? ロッドか…なんだよ……」
なら関係ないとばかりにそっぽ向くザックス。
「なぁ、おかしいと思わないか」
ロッドがふらりと立ち上がりながら放った言葉に、ザックスは「何が」と返した。
…何かおかしな事でもあっただろうか?
ザックスは自覚していなかっただけに首をかしげた。
「なんで俺だけこんなボロボロなんだ…」
お前が弱いからだろ、と。そうレノがぼそりと呟く。
言われた当の本人、ザックスもうんうん、と同意の意を示した。
「お前、確信犯だろ」
ロッドの言葉に、「あー」とザックスは頭を掻いた。
そういう事か。それならこちらにも言い分がある。
特に焦りもせずザックスは言った。
「なんだ。レディーに傷はつけられないだろ」
レディーとは案にシスネを示しているが、ロッドはそれでは納得しない。
なんせ、『レディー』に該当しない人が、そこにいるのだから。
「レノは女じゃねぇ!!」
ああ、そういえば。失念にしていた事にザックスは呑気に「ああ」と声を漏らす。
ちらりとレノに視線を向ければ、「言うなよ」といわんばかりの目でこちらを睨んでいた。
どうせならいっそ、「レノは俺の彼女だ!」なんて叫んでしまいたい。
しかし『彼女』だと思っているのは自分だけだし、そんな事いえば半永久的に口を聞いてもらえなくなる。
「……ロッド。んな口が聞けるって事は、まだ余裕って事だよな?」
「え? えぇええええ!?」
とうとう良い反論が見つからなかったから、半ば強引に話を逸らした。
「ぷはぁ〜」
腰に手をあて、飲みほした缶をゴミ箱へと放り投げる。
カランカランと音をたて、缶は見事にゴミ箱へと吸い込まれていった。
ザックスはそれを見届けた後、どかりと、缶コーヒーを飲むレノの隣に座る。
今は休憩中だ。自販機と固めのソファ以外何もないこの部屋にはザックスとレノ以外誰もいない。
「……なんか余計な事言ったらブッ殺す。あと変な行動すんなよ、と」
レノが口に缶コーヒーを当てながら、誰に言うでもなくつぶやいた。
さきほどのザックスの行動の事を指しているのだろう。
ザックスとて故意にやったわけではない。
シスネに関しては、やはり女性の肌に傷をつけたくなかったという事であるが、
レノに傷をつけるのも、なんだか気が削がれていたのだろう。
「……愛は態度にでんのよ」
レノの言葉に対して頷くでもなく、拒否するわけでもなく。
ふと思いついた言葉をザックスは口にした。
頷くのもなんか嫌だったし、拒否もしたくなかったから。
しかしすぐに返答は返ってこなかった。
……もしかしたら怒ってるかもしれない。
素直に頷いておくべきだったかと、ちらりとレノを横目で見た。
当の本人は、くすくすと笑っている。
ああ、良かった。怒っていない。
「はっ、そんなキメェ言葉、どっからでてくんだよ、と」
ザックスを睨んだ、あの目ではなく。
純粋にレノは笑っていた。
そんな事さえも、なんだか嬉しく感じて。
「レノを絶対、傷つけさせやしねーよ」
そんな事を、思った。
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ロッド好きさんごめんなさいぃ…!