『掛け替えのない貴方』に微妙に続いてる……。
気持ちは、ね。読まなくてもわかりますが。
2人のカタチ
黒髪の、彼は今回ソルジャーの服ではない、私服でその場に立っていた。
公園の中央の大樹を囲むように造られたレンガの塀。そこにザックス・フェアは居た。
そわそわして落ち着かない。何度も何度も時計を見る。
周りは公園で遊ぶ子供ばかりなのに、ここには何故か非常に緊張した面持ちで立っている大の大人。
不審な光景ではあるが、気にとめるものは少なかった。
気にとめる者といえば、年頃の少女。ザックスはあの面構え、かっこ良い、そう見える。
小さい声で、「あの人かっこよくない?」そう言いあう少女達。
勿論、ザックスはそんな事を言われている事など知らない。
ザックスは初めての、恋人との「デート」にありつけた。
相手がデートと思っているかはわからないが、ザックスはデートだと思っている。
何故相手がデートしてくれる気になったか、それはどうでもいい。
今日、確かに今日のこの場所で待ち合わせをした。……今から30分後に。
ザックスが30分以上もはやく来たわけは、恋人が非常にきまぐれであるからだ。
ここにはきっと来てくれるだろう。しかしもし自分が遅れたら帰ってしまうかもしれない。
それだけは絶対に嫌だった。はやく来るにこしたことはないだろうと、30分以上前に着いていたのだった。
「来るかなぁ……」
来るはずないのに、顔見たさでつぶやいてしまう。
案の定返答はなく、ザックスは、はぁと溜息をついた。
突然。げし、という音ともに尻のほうにかすかな痛み。
「い”てっ……?」
「ばーか」
前のめりになったザックスが振り返ると、そこには会いたかった恋人。
「レノ!?」
「敵に背をみせるなんて馬鹿のやる事だぞ、と」
いや、敵じゃない……言いかけた言葉をなんとか呑み込む。
「ってまだ20分あるよ?」
「任務がはやく終わって、やる事ねぇからはやく来たんだぞ、と。つーか、てめぇの方が来るの速かっただろうが」
確かにそうですけど。まぁ、プレイベートな待ち合わせはした事ないからわからないが、
遅れてきそうな印象がある。仕事ではかならず5分前には来ているののだが……。
「ま、20分デートが伸びたってことで」
嬉しそうな満面の笑みをみせ、ザックスは言った。
しかしレノはザックスの額をこ突いてみせ、
「デートじゃないぞ、と」
「じゃぁ、何よ?」
「犬の散歩」
「なっ……」
けらけらと笑うレノ。確かに、子犬よばわりされているが、それはひどいんじゃないか。
こっちはデートだと思っているのに、相手は犬の散歩。
受付の子達にきゃあきゃあと、デートに誘われていた自分は嘘だったのだろうか。疑問に思う。
「ま、今日は付き合う約束だからな。行きたいとこ行けよ、と」
「もちろん」
まぁいいだろう、とザックスは今日という一日を楽しむことにした。
2人でレストランへ行き、昼食を終えたあと、人通りが多い商店街を歩いていた。
左右に店が立ち並ぶこの商店街、この日もにぎわっている。
ザックスは隣を歩くレノにちらりと視線をやる。
その視線に気づかないのか、前を見悠々と歩いているレノ。
私服をざっと上から見てみると、黒のタンクトップの上に、
勝手にザックスが言う、レノ色の赤のシャツに黒いジャケット。
下も黒色だ。タークスのスーツを一見変わっていない様にも見えるが、
タークスのスーツとは違う、レノらしさがある。
可愛い、が強いのと、かっこいい、もある。そしてやんちゃそうで、大人っぽい。
それがザックスから見たレノの印象だった。
「あ、おい。ザックス」
先ほどから見ていた店の前のガラスケースにレノが何かをみつけたようで、
飄々と速足でガラスケースに歩いていく。
「ん、何?」
ザックスもそのガラスケースへと行きレノの隣に立つ。
レノは何かを、見た後、振り返りザックスの目をじぃっと見つめた。
「な、何?」
「これ、オマエの目の色っぽいぞ、と」
ちらりと指さされたガラスケースを覗き込むと、確かに魔晄の色をした宝石のネックレスがあった。
「お、すげぇ」
「珍しいぞ、と」
魔晄色をしたネックレスは、宝石店のガラスケースのはじにあってなかなか見つけづらいものだ。
そうであって尚、これを自分の目のようだと言ってくれたことは正直嬉しかった。
「あ、そうだ」
ザックスは、何かを思いつき、にっこりと笑む。
「なんだよ、と」
「ちょっと待ってて」
そう言い残し、ザックスはその宝石店へと入って行った。
「ったく……」
残されたレノは待つしかなかった。
「すいませーん」
ザックスは宝石や鉱石といったものが並ぶ店内を進みながら言うと、
奥から店員らしき少々老いた男性が歩いて来る。
「えっとさ、あのガラスケースに入ってる宝石なんだけど……」
特徴を言うと、店員のほうは「ああ、あれか」と頷く。
「あれはどこぞの鉱山で見つかったらしくてな。相場もない挙句、
名もない宝石なんだ。これといって珍しくもないし、よくでるわけでもない。
まぁ、ふたつしか採れなかったんで、こうしてネックレスにしとる」
「ふたつ?」
「ああ。ふたつしかない」
という事は。考えるよりも聞くほうが速い。
「ふたつしかない…と?」
「そう言っとる。この世界のどっかにまだあるかどうか知らんが、いまのところ存在するのは、ふたつだ」
「買う」
ふたつしか存在しない宝石。これを『アレ』にしようと考えたザックスは即答した。
「ほう。彼女さんにかい?」
「そのとーり」
「あんたさんと、その子の名前は?」
「俺がザックスで、相手がレノ」
「ほぅ」
店員がにやりと笑うと、ザックスもにやりと笑った。
「おーっ待たせーっっ」
「遅いぞ、と」
きっ、と睨みつけるが、にこにこと笑ったままのザックスに、溜息。
「で、何してたんだよ、と」
「うん」
紙袋からごそごそと何かを取り出すと、突然抱きついてくる。
「ば、おまっ……!」
抱きついてきた、にしては力が弱い。自分の首の後ろでなにかごそごそとするザックスをちら、と見た。
「できた」
レノからザックスは離れると、にっこりとまた微笑んだ。
自分の首には、さきほどの魔晄色のネックレスがつけられていた。
それを手にとってまじまじと見ると、何やら石に刻まれた文字。
『Zack』そうレノのネックレスに書かれていた。
ザックスは、自分の首から同じネックレスをだし、刻まれた文字をレノに見せる。
「Reno……」
ザックスのネックレスには確かにそう書いてあった。
「へへ。お揃い」
馬鹿みたいに笑む恋人は、とても愛らしい。
「気持ちわりぃぞ、と」
「……レノにとって、俺は何?」
笑みをやめ、真剣な顔つきになったザックスに、レノは少し驚く。
「何って……」
「ちゃんと、確認したいんだ」
じぃっと見つめてくる魔晄の目は、とても、美しい。
本当に真剣なのだと、それでわかった。
ったく、こいつは俺をどうしたいんだよ……と。
レノは、人目があるのにかかわらずがっ、とザックスの手を握った。
そして速足でその腕をひっぱる。
「隣にいて欲しい存在だぞ、と」
小さい、小さい声だったけど、ザックスにとって、それで十分だった。
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デート話はもうちっと続きます。
2009/09-10